セルバンテスが愛した街、バルセロナ

文/東 敬子(フラメンコ、スペイン文化ライター)Text: Keiko HigashiKバレエカンパニー『ドン・キホーテ』公演パンフレット掲載 2015 ー 一部編集

この土地に足を踏み入れた時、ドン・キホーテとその従者サンチョ・パンサは、生まれて初めて見るその広大な海の青に魅入られ、きっと呆然と立ち尽くしたのだろう。バルセロナの街は、今も昔も、人々の心を惹きつけて止まない。

スペインを代表する作家ミゲル・デ・セルバンテス(Miguel de Cervantes 1547 – 1616) は、偉大な著書『ドン・キホーテ』の「前編 (El ingenioso hidalgo Don Quixote de La Mancha)」を1605年に出版した後にバルセロナを訪ね、「後編 (Segunda parte del ingenioso caballero Don Quixote de la Mancha 1615) 」で、キホーテの放浪の旅の最後を飾る土地にバルセロナを置いた。彼にそうさせる特別な何かが、この土地にはあったに違いない。

西に地中海、北にフランス国境のピレネー山脈を臨むバルセロナは、マリンスポーツとウィンタースポーツを同時に楽しむことができる、まさに、観光の万能スポットだ。

カタルーニャ州の州都であり、マドリードに次いでスペイン第二の都市であるこの土地の歴史は古く、紀元前20年ごろ、「バルチーノ」と呼ばれたカルタゴ人の土地をローマ人が占領し、当時の先端技術を導入して殖民都市「パルキノ」に作り変えたのが、その起源と言われている。

しかしその後、5世紀に西ゴート王国、8世紀にはイスラム勢力下に、そして9世紀にはフランク王国統治下に置かれる。そして11世紀についカタルーニャ君主国として独立し、12世紀にはアラゴン王国と連合して、15世紀にスペイン国に吸収されるまで、独自の言語と文化を持つ中世都市として繁栄した。

そんな歴史の片鱗を感じさせる、いにしえの香り漂うゴシック地区(旧市街)の散策は、カタルーニャ広場とコロンブスの塔をつなぐ、ランブラス通りから始めたい。

Mercat de Sant Josep, La Boqueria

ラ・ボケリーアのオフィシャル・サイト

13世紀の終わりから150年をかけて建てられたバルセロナ唯一のカテドラル「聖十字架と聖エウラリア大聖堂」。人々で賑わうバルセロナの胃袋、ラ・ボケリーアの愛称で知られるサン・ジョセップ市場。19世紀に建てられた、外観も内装もゴージャスなスペイン屈指のオペラハウス、リセウ劇場。歩を進めるごとに、現代の街角に、過去が鮮やかに蘇る。

そしてバルセロナのシンボルと言えば、アントニ・ガウディ(1852~1926)の建築群。数ある中でも、やはり見逃せないのがサグラダ・ファミリア(聖家族教会)。1882年に着工し、未だ完成を見ないこの教会は、まるでロウソクが溶けて流れたような、一見グロテスクな外観が、見る者に強烈なインパクトを与える。また、バルセロナの街が一望できる1900年に着工されたグエル公園も一般的な“公園”のイメージからはかけ離れている。サルバドール・ダリは、その入り口の小屋を見て「砂糖をまぶしたタルトのよう」と表現した。共にユネスコに登録されている貴重な世界遺産だ。

Sagrada Familia

Sagrada Familia Official Page

そんなアートの街は、もちろん、ファッションにも敏感だ。バルセロナらしい、ちょっと尖ったセンスが光るファッションブランド「クスト」や「デシグアル」が、個性爆発の色とりどりのプリントで世界をリード。この街は、今やロンドンやニューヨークにも負けないトレンドセッターへと変貌を遂げている。

Custo Barcelona

食もまた、しかり。新鮮な海と山の幸を存分に生かした伝統料理に舌鼓を打つ傍ら、常に最先端を競うシェフたちが生み出す21世紀の地中海クイジーンが、驚きの新食感で舌を刺激する。ここでは、食もアートなのだ。

フェラン・アドリアが世に贈ったエスプーマの技法

料理を科学する「分子ガストロノミー」を世に広めた世界最高峰のスペイン人シェフ、フェラン・アドリアが舵を取ったレストラン「エル・ブジ」が2011年に閉店し、ガストロノミーの発展に貢献する団体に移行すると、後進の若いシェフたちが新しい船出に乗り出した。

フェランの弟アルベルト・アドリアが展開するタパス・レストラン「チケット」、エル・ブジ出身の3人のシェフがオープンした地中海料理「ディスフルタール」が今話題だ。

Ferran Adrià
Alberto Adrià
チケットの独創的なタパス
Disfrutar Restaurant

そして、バルセロナは世界に名高いフラメンコの女王、カルメン・アマジャ(1918~1963)を生んだ土地でもある。ヒターノ(スペインに住むロマ民族の俗称) の情熱を体現する偉大な踊り手。映画『バルセロナ物語』(1963) では、バルセロナの美しい海をバックに踊る彼女の強烈な足音が、いつまでも耳に残る。

バルセロナ物語でのカルメン・アマジャ

Carmen Amaya

一生かかっても知り尽くせない、そんな無限の魅力が詰まったこの街の灯りは、いつまでも休むことなく輝き続けるだろう。

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