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観てきました! 〜スペイン国立バレエ団『エレクトラ』

Text: Keiko Higashi (東 敬子 フラメンコ・ジャーナリスト)

Ballet Nacional de España “Electra”, Teatro de la Zarzuela, 9.12.2017 Madrid

昨夜12月9日、観てきました、世界初演! スペイン国立バレエ団の新作『エレクトラ(Electra)』は、誰もが知る古代ギリシャの悲劇を、20世紀スペインに舞台を置き換えて、よりフラメンコに、よりダイナミックに繰り広げていきます。

古代ギリシャということで、その物語には現代の感覚とは若干違う複雑さがありますが、簡単に言えば、エレクトラを中心に、それぞれの思惑が交差する愛憎劇であり、それによって起きる復讐が、物語のベクトルを動かします。

もちろん観る前にあらすじを追っておくに越した事はありませんが、知らずに観ても十分理解できる、非常に分かりやすく、かつ巧みな演出が光りました。

そこには、舞踊でストーリーを表現すると言う、簡単なようでいて、実は難しい挑戦がありました。私は、今回の作品を観て「これだ!」と思いました。私が長年観たかったのはこれだと。

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というのも、私はフラメンコの物語作品を観るたびに、いつも不満を感じていたのです。演者が発するセリフと感情を示す動きを使った「演技」に頼ってしまう作品が、どれだけ多いことか!しかし今作品では、音楽を動作に合わせただけの「パントマイム」にも陥る事なく、あくまで「踊り」でストーリーが表現されている。

そこには、アントニオ・ナハーロ監督の柔軟かつ大胆な発想がありました。彼は今回、この新作を発表するにあたり、他ジャンルからの才能を取り込みました。コルドバに生まれ、スペイン舞踊一般にも精通するコンテンポラリー舞踊家・振付家アントニオ・ルスを迎えたのです。そしてフラメンコ舞踊家・振付家オルガ・プリセーの協力のもと、フラメンコを中心に、スペイン舞踊とコンテンポラリーダンスも織り交ぜ、この物語作品と言う、舞踊団の新しい挑戦に乗り出しました。

初日!

アントニオ・ガデスの名作を彷彿とさせるフラメンコの味に満ちた結婚式のシーン。傷心のエレクトラをからかう女性たちの奔放な残酷さ。酔っ払った男性たちの陽気な荒々しさ。女王の着替えも巧みで、髪を三つ編みにするところなんかは、小さな名シーン!

見所は沢山ですが、なんと言っても今回は、監督アントニオ・ナハーロが出演する豪華さ!

出て来ただけで彼と分かるそのオーラ。カリスマ性。もう、ロックスターみたいにキラキラ輝いているんです! 彼の踊りを久々に舞台で見て、まだまだ現役だなあと感心しました。いつ舞台に出ても良いようにいつも準備満タンなのはさすがです。就任当時「舞踊団監督として専念するが、軌道に乗ったら踊るようになるかもしれない」と話していた彼ですが、監督7年目にして、その時が来たようです。

Antonio Najarro

しかも、パンフレットの「今回の豊富」のテキストでも、自分が踊りますなんて一言も書いていなくて、また、その久々の出演が自分の作品ではなく、他の振付家の作品であるところにも、彼のアーティストとしての素晴らしさを感じます。いち踊り手として自分を人の手に委ねる事で伸びしろを広げる。彼のようにキャリアも実力もある人には中々出来ない事です。

そして音楽も秀逸! オーケストラとカンテの歌声の素晴らしかったこと! ……あ~もう私の作品の感想はまだまだ尽きませんが、続きはまた後日改めて。皆さんはその間に、公演へどうぞ! マドリードのサルスエラ劇場で12月23日まで公演中です。お見逃しなく。

エレクトラのPV

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アントニオ・ルスリハーサル

ゴージャスなサルスエラ劇場